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外国人留学生に支払うバイト代に係る源泉所得税

 

1.「居住者」と「非居住者」
外国からの留学生をアルバイトとして雇った場合に、そのバイト代から源泉徴収する必要があるかどうかが問題となります。まず、確認するべきことは、その留学生が「居住者」であるか「非居住者」であるかということです!

日本の所得税法では
「居住者」とは国内に「住所」を有し、又は、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいい、「居住者」以外の個人を「非居住者」と規定しています。

●「住所」は「個人の生活の本拠」をいい、「生活の本拠」かどうかは「客観的事実によって判定する」ことになります。したがって、「住所」はその人の生活の中心がどこかで判定されます。ある人の滞在地が2か国以上にわたる場合に、その住所がどこにあるかを判定するためには、職務内容や契約等を基に「住所の推定」を行うことになります。

●「居所」は「その人の生活の本拠ではないが、その人が現実に居住している場所」とされています。例えばホテルなどです。

学生の住所について、所得税基本通達では「学術、技芸の習得のため国内又は国外に居住することとなった者の住所が国内又は国外のいずれかにあるかは、その習得のために居住する期間その居住する地に職業を有するものとして、法令の規定により推定するものとする。」と定められています。
つまり、外国人留学生の場合には日本に居住する期間を確認し、1年以上であれば「居住者」として、1年未満であれば「非居住者」となります。

 

2.国内法における源泉徴収
その留学生が「居住者」であるならば、日本人アルバイトと同様に源泉徴収税額表等にしたがった税率において源泉徴収をします。「非居住者」であるならば、原則的に20.42%(復興特別所得税含む)で源泉徴収をします。

 

3.租税条約における源泉徴収
ただし、ここで問題となるのが租税条約の存在です。租税条約とは、国際的な二重課税や脱税行為を排除するために、二国間で締結される条約のことをいい、日本においては、国内法と租税条約との内容が異なる際には、常に租税条約が優先されることとなります。つまり、国内法で課税とされる場合であっても、租税条約により免税となるようなケースがあるということです。

 

4.国ごとに異なる租税条約
●中国の留学生の場合
 日中租税協定第21条においては、「専ら教育若しくは訓練を受けるため又は特別の技術的経験を取得するため一方の締結国内(日本)に滞在する学生、事業修習者又は研修員であって、現に他方の締結国(中国)の居住者であるもの又はその滞在の直前に他方の締結国(中国)の居住者であったものがその生計、教育または訓練のために受け取る給付または所得については、当該一方の締結国(日本)の租税を免税する。」と定められています。
したがって、中国の留学生の日本での生活費や学費にあてる程度のアルバイト代であれば、国内法で課税であっても、租税条約により免税となります。
この場合には、「租税条約に関する届出書」を給与等の支払者を経由して税務署に提出する必要があります。

●インドの留学生の場合
 日印租税条約第20条においては、「専ら教育又は訓練を受けるため一方の締結国内(日本)に滞在する学生又は事業修習者であって、現に他方の締結国(インド)の居住者であるもの又はその滞在の直前に他方の締結国(インド)の居住者であったものがその生計、教育又は訓練のために受け取る給付については、当該一方の締結国(日本)の租税を免税する。ただし、当該給付が当該一方の締結国(日本)外から支払われるものである場合に限る。」と定められています。ただし書きの規定により、免除される給付は、日本の国外から支払われるものに限られます。
 したがって、インドの留学生が日本でアルバイトにより得た所得は、国外から支払われるものではないため、免税とはなりません。
居住者か非居住者の区分に従って、源泉徴収を行う必要があります。

●ベトナムの留学生の場合
 ベトナムとの租税条約第20条においては、「専ら教育又は訓練を受けるため一方の締結国内(日本)に滞在する学生又は事業修習者であって、現に他方の締結国(ベトナム)の居住者であるもの又はその滞在の直前に他方の締結国(ベトナム)の居住者であったものがその生計、教育又は訓練のために受け取る給付については、当該一方の締結国(日本)の租税を免税する。ただし、当該給付が当該一方の締結国(日本)外から支払われるものである場合に限る。」と定められています。
 したがって、インド同様、ベトナムの留学生が日本でアルバイトにより得た所得は、国外から支払われるものではないため、免税とはなりません。
居住者か非居住者の区分に従って、源泉徴収を行う必要があります。

●タイの留学生の場合
 タイとの租税条約第19条においては、「一方の締結国(日本)を訪れる直前に他方の締結国(タイ)の居住者であった個人であって、専ら、大学その他の公認された教育機関において勉学するため、職業上若しくは営業上の資格に必要な訓練を受けるため、(省略)当該一方の締結国(日本)を訪問するものは、次のものにつき、当該一方の締結国(日本)内において租税を免除される。(1)生計、教育、勉学、研究又は訓練のための海外からの送金(2)交付金、手当又は奨励金(3)5年を超えない期間内に当該一方の締結国において提供する人的役務による所得」と定められており、中国同様、国内法で課税であっても、租税条約により免除となります。

●その他の国の場合
 その他の国についてですが、アメリカ、イギリス、ロシアなどの学生については、インドなどと同じく、「国外からの送金に限る」とする規定が条約にあるため、免税となりません。また、韓国やフィリピン、パキスタン等の国は勤務による報酬額に制限を設け、制限金額までは免税となります。各国の制限金額については、それぞれご確認下さい。


5.手続き等注意点
 租税条約において学生とは、学校教育法第1条に規定する学校の学生のことであるため、専門学校や日本語学校などの学生については、租税条約の学生には含まれないことに注意して下さい。
 また、この租税条約の免税の適用を受けるためには、「租税条約に関する届出書」にその留学生の大学の在学証明書を添付して、給与の最初の支払日の前日までに税務署に提出することが必要です。万が一、租税条約の免税について知らずに源泉徴収をした場合には、給付があった日から5年以内に「租税条約に関する届出書」と「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書」を税務署に提出することで、納付した源泉徴収税額の還付を受けることができます。

 

6.まとめ
 このように、留学生アルバイトを雇った際にはまず、その者が居住者であるかどうか、どこの国から来たか、どこの学校の生徒であるかなどを確認する必要があります。また、留学生アルバイトに給与を支払う場合だけではなく、非居住者に支払う所得については、源泉徴収をしないといけないかその都度確認する必要があります。非居住者に地代を支払う場合や、不動産の購入代金を支払う場合など、支払う所得それぞれについて源泉徴収の必要があるかどうかをまず確認し、次にその非居住者の国との租税条約の内容を確認するという流れによって、確認をするようにして下さい。

 

  

 (2018年10月記載)

 

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