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同一生計内での対価の取扱いについて

 

 今回は個人事業を営んでいる方向けのお話です。

 

 個人事業を営んでいくためには色々な経費が必要になり、それらは所得計算上必要経費となることは日々帳簿をつけている方としては常識の範疇かと思います。

 

 例えば水道光熱費、家賃、給与、これらはどの業種・業態でも発生しうるものですが、他人(生計別の親族を含む))に支払った場合は特段問題なく経費になる事は周知かと思います。

 

 では、その支払先が事業主の配偶者や、同一生計内の親族その他に支払った場合はいかがでしょうか。

今回はそんな身内で発生する対価の取り扱いについて、そしてそれらを利用した節税の仕方について解説していきます。

 

 ※同一生計とは、一言で言ってしまえば収入・家計を共にしている方を言います。配偶者や子供などが最たる例ですが、家族四人が家長の収入で生活をしている場合、本人以外の3人を同一生計と呼びます。

 

 なお、同一生計の要件には必ずしも『同居』は含まれません。例えば、親元を離れて一人暮らしをしている大学生などでもその生活を支えているのが親からの仕送りであれば、その大学生も同一生計親族に該当します。

 

1.対価の必要経費不算入

(1)生計一親族との対価の授受はなかったことになります。

 この件を理解するにあたっては、まず大事になってくるのが原則。所得税法では、この本人を含む生計一親族へ支払った給与、その他の対価(親族名義の建物賃借料など)は必要経費になりません。これは、実際にお金の支払いがあったかどうかに関わらず取扱いは一緒です。

 

 同一生計をお財布に例えるなら、収入も家計費も同一生計は同じお財布から出し入れする事になります。今回の対価支払はいうなればこのお財布の中でお金を動かしたに過ぎず、税務署は外へ出たり入ったりしていないお金に関して、一切カウントしないというのが基本的な考え方になります。

 

 当然ですが、逆に支払いを受ける側、つまり事業主の親族は実際に事業主から対価の支払いを受けていたとしてもそれらは所得税法上収入としてカウントしません。そのため、当然確定申告や年末調整なども発生しないことになります。

 

 この金銭のやり取りは、対価としての性質のみが『なかったこと』になり、お金が支払われた事は贈与したものとみなし、贈与税の対象になりますので更に注意が必要です。

 

 例)事業主Aが配偶者B名義の建物の賃借料200万円/年を支払った場合

 事業主A・・・200万円の経費⇒0円になります。

 配偶者B・・・200万円の収入⇒0円になります。200万円をAからもらった扱いになるので、200万円に対し、贈与税が発生します。

 

(2)対価に付随する支出は実際の負担者の経費へ算入します。

 

 上の例でいうBに焦点を当ててみましょう。Aから支払いを受けた200万円はなかったことになります。建物を貸すわけですから当然所有していて、固定資産税その他の発生は不可避と言えます。固定資産税を10万円/年として、そのまま計算すると

 

配偶者Bの所得は0円-10万円=△10万円

 

 あくまで計算上ですが毎年赤字になってしまいます。なんだかおかしいですね。 結論として、この固定資産税10万円は実際に借り受けている事業者Aの必要経費に算入される事となります。

 

2.例外は二つ。青色事業専従者給与と事業専従者控除

 

 ここからは、生計一親族内で発生した給与についての取り扱いです。不動産の貸付などほかの対価については、例外なく1.が当てはまりますので、注意して下さい。 原則では『対価の必要経費不算入』とはいっても、家族で切り盛りしているお店さんなどアルバイトを雇う余裕もなく、家族に手伝ってもらう事なんてざらにある例やと思います。また、アルバイトを雇えば給与が必要経費になり、家族にアルバイト代を払えば必要経費にならないというのも不整合でしょう。 そこで設けられているのが、申告区分に応じた各1種ずつの例外『青色事業専従者給与』と『事業専従者控除』です。

 

(1)青色事業専従者給与

 

 生計一親族に支払った代価を必要経費に算入してもよいとする例外規定その1です。こちらは青色申告者専用の制度で、この制度を利用すれば労務の対価として支払っている金額分だけ必要経費が増える=事業者の節税効果に繋がるという訳です。

 

 この制度における注意点は3つ。

 

(イ)事前届出が必要

 

所得税法上『青色事業専従者給与に関する届出書』をその年3月15日までに提出しなければいけません(1月16日以後、開業または専従者を新たに加える場合には、その日から2月以内)。具体的には、令和2年に事業へ従事する青色事業専従者の届け出は令和2年3月15日までに提出しなければいけません。 また、この届出書には従事する労務の内容や月額いくらまで支払うかを予め記載しておく必要があります。 条文では従事する労務の対価として相当であり、かつ届出書に記載した金額の範囲内であれば認めるとしている事から、同業種や一般的な求人に比して突出して高額な対価は認められません。

 

(ロ)兼業不可、事業従事期間に定めあり

 

 一般家庭で本ケースが議題となるのは兼業主婦と高校生・大学生でしょう。

 

 青色事業専従者の所得税法上の要件は以下の3つです。

・青色申告者と生計を同一にする親族であること

・その年12月31日の現況において15歳以上であること

・青色申告者の事業に、事業従事可能期間の半分以上(通常は6ヶ月以上)専従していること

 

 専従とは、専らその事業に従事している事とされていて、掛持ち・兼業の余地はありません。その為、主・従に関わらずどこかへパートに出ている兼業主婦や、手に職を持つ配偶者などは含める事が出来なくなります。

 また、高校生・大学生はアルバイトなどをしていなくても学生の本分は学業の為、たとえ就業形態を工夫して週5日8時間がっつり従事していたとしても要件を充足する事はありません。

 

(ハ)給与支払を受ける側に収入が発生する

 

青色事業専従者給与は事業者にとって、必要経費として計算される反面、給与の支払いを受けた者、つまり親族側は給与収入があったものとして計算する事になります。 加えて青色事業専従者給与を受ける者は収入の多少に関わらず、配偶者控除・扶養控除の対象外とされてしまいます。例えば

 

・配偶者への給与が38万円未満ならば、配偶者控除38万円の方が節税効果大。

・19歳〜22歳の同一生計親族への給与が63万円未満ならば、扶養控除63万円の方が節税効果大。

 

 逆に本人の給与収入が103万円を超える場合、一般の給与所得者と同様に所得税が発生する事となります。

 所得税は累進課税制度が適用される為、高所得者の所得を給与として低所得者に配分する効果が得られる青色事業専従者給与制度の利用は節税に繋がり、事業者の所得を290万円以下にする事で、個人事業税の発生を抑える事も出来ます。

 ただし、本人との所得のバランスを考えないと、給与所得者側の所得税・住民税が高額になり、思った通りの節税効果が得られないほか、事業主から支払いを受ける以上、事業主の所得とのバランスを欠いた給与支払い(給与が高すぎて、事業主の取り分を上回るなど)は社会通念上認められない可能性があるので、こちらも注意が必要です。

 なお、給与所得は様々な行政サービスの適否の判定にも関わってきます。国民年金の免除や、高齢者の医療費負担軽減などにも関わってくるので、金額の設定は慎重に行う必要があります。

 

(2)事業専従者控除

 前述が青色事業者専用の制度なら、こちらは青色以外(一般に白色申告と呼ばれる人たち)に適用される制度です。青色事業専従者と比較しながら説明していきます。

 

(イ)金額は固定

 青色事業専従者給与は月額の給与・賞与とも『青色事業専従者給与に関する届出書』に記載した金額の範囲内で、実際の就業の状況に合わせて支給額を決定するのに対し、事業専従者控除は上限が固定されています。配偶者86万円、配偶者以外50万円です。

 事業専従者が事業者の取り分を上回ってはいけないというルールがこちらは明文化されているのも特徴の一つ。

 

(ロ)届け出不要

 所得税法では、事業専従者がある場合には、一定の計算により算出される金額を必要経費とみなすと記載されています。つまり、青色事業専従者給与が事前届を出して、その届出書記載金額の範囲内で実際に払った金額を必要経費にするのに対し、事前の申請も不要、実際の金額(貰う側は欲しいと思いますが)受け渡しも不要、というのがこの制度の大きな特徴です。

 

(ハ)事業従事期間がその年の6月以上

 青色事業専従者給与は事業従事可能期間の半分以上とされています。例えば、11月開業で2か月従事しただけでも青色事業専従者給与は認められますが、事業専従者控除は『6ヶ月以上事業に従事』と明確に期間が定められているので、開業年等、就業できる期間が短いと適用できないケースも出てきますので、注意が必要です。

 

3.まとめ

 今回はこれで以上です。

  まとめると、同一生計、つまり身内への金銭の授受は原則的になかったものとされ、そのお金を渡す行為そのものは贈与とみなされます。

 ただ、実態として身内の就業により成り立っている中小事業者は多く存在する事から、外部就業者を雇い入れた場合との課税の公平を図る上での例外措置として、青色事業専従者給与や事業専従者控除が設けられている事を念頭においておけば理解しやすいと思います。

あくまで例外措置の為、事前申請などクリアすべき課題がある事を理解した上で、うまく活用すれば大きく節税に役立てる事が出来る制度です。

 

(2020年1月記載)

 

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